俺は体中が震えるのを感じながら、それでもどうにか前へ進んだ。 コージに感じた恐るべき妖気が、まだ俺の身体に染み付いているような気がして、それを振り払いたくて、前へ進んだ。 ふと見上げる、目の前にシューセの部屋。 ああ、シューセ、助けてくれ。コージを疑ってしまったこの思いを、どうにか君の笑顔で払拭してくれ。 そう思い、倒れこむようにしてシューセの扉を開ける。 ノックもしなかったから、当然かもしれない。シューセが小さく悲鳴を上げた。 「シューちゃん、俺・・・」 シューセの部屋。彼はベッドの脇に座っていた。俺が突然入ってきたから驚いて立ち上がったが、その仕草が却って、一体今までどれほど長く座っていたのだろう、と思わせる。深く沈んだベッドの窪みが、殊更に。 ベッドの前にあるテーブルの上、大ぶりの灰皿に炎が上がっていた。黒い煙が立ち昇る。燃えていたのは煙草ではない。ほんの一瞬、瞬きする間しか見えなかったが、間違いない。燃やしていたのは、アリシナの写真だった。 縦に二つに破られた写真。傍らにあるジッポで火をつけたのだろう。火はあっという間に燃え上がり、アリシナの濃い顔立ちを、一瞬の内に灰にしてしまった。アリシナの服が、首筋が、顔が、真っ黒になる。 「シューちゃん?どうして・・・・・・」 言いかけて、口を押さえた。聞かない方が良かったのだ、という思い。シューセの顔に一瞬にして暗い影がよぎる。答えられない、と言う代わりに背けられる視線。俺はどうしたらいいか分からなくなる。 「ごめんね、急に入って・・・」 それだけ言えた。後は、入ってきたときと同じように、急いで扉を閉めた。 何故・・・彼ハ何故、彼女ノ写真ヲ破イタノカ?――― 閉めた扉の前で、深く深呼吸をする。 暗いまなざしのシューセ。頭から離れない、燃えるアリシナ。 どうして・・・?何故写真を二つに破る必要があっただろうか?アリシナの顔を、頭から真っ二つに。 それは、まるで。 まるで、怨恨・・・・? 吐き気がする。シューセの明るい表情が、浮かんでは消える。まさか、彼に限ってそんなはずがない。誰かを憎むなんて。しかも、その相手がアリシナだなんて。そんな理由が、どこにあるだろうか?二人の間に、一体何があったのだろう? 今は、とても聞けなかった。俺は恐れていた。シューセが、アリシナを撃ったのではないか・・・?そんな途方も無い疑問が湧くことを。 |